羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

はじまりのとき

自分が自分になったのはいつか。

 

物心つく、という言葉があるけれど、それは幼い時期のある日、ふいにやってくる瞬間だと思う。

 

そこから、人生のゆくてに向かって、リボンのリールが投げられる。

伸びていく細いサテンの艶。

切れることのない意識の一筋。

 

わたし自身のリボンの出処は、6歳の夏の夕方に母に連れられていった、マーケットの魚屋の前だ。

 

他の人はどうなのだろう、と思った。

出発点は誰にもあるものだろうか。

 

数人の友人に聞いてみた。

あのときから自分というものがはじまった、というふうに考えたことはありますか、と。 

あしたから一人ずつの話を書いてみることにする。