羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

トラックの内側で

運動会の徒競走のときだったのよ。

彼女は笑顔になって話しはじめた。

 

ゴールしたら、トラックの内側に入って、順位の旗の後ろに並んで座るでしょう。

次々にゴールしてくる組がいる。

周りは大歓声。

トラックをはさんだ向かいには低学年の子たちが小さな椅子に座っていて、その後ろからおとうさんやおかあさんたちも声援してる。

スタート地点から、ぱあん、というピストルの音がまた聞こえる。

 

わたしは4年生だったかなあ。

秋晴れで空は青くて白い体操着がまぶしくて。

校舎からは万国旗が斜めに張られていて、入場門や退場門には、薄紙の花がいっぱいくっついてる。

 

見える限りのものをぜんぶ見渡して、聞こえる音や歓声をぜんぶ聞き、わたしも、うわーっと声を出して手をたたき、ゴールに入ってくる子たちを迎える。

その合間に、思ったの。

わたしは、いまのこのときを、後になって思い出すんだろうなあ、って。

 

それがわたしのはじまりだったと思う。

そこからは外の世界の受けとりかたが変わってない気がするの。

いまのこのわたしが、トラックの内側に座っているようにも感じる。

思い出している自分と思い出されている自分は、一つなの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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