羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

コッペパン買って

男性は一人。

小学校の図工の先生を勤め上げた人だ。

わたしのはじまりの話を聞いて、彼は、あ、といった。

僕にもあった、と。

 

幼稚園のころ。

お昼はお弁当だったのだが、週に一度、水曜日だけはおかあさんにお金をもらって、近くのパン屋さんで自分でコッペパンを買っていった。

 

それがうれしくてね。

パン屋の前で、ズボンのポケットに手をつっこんでお金を出すんだよ。

バターと、まっかなイチゴジャムを塗ってもらうの。

 

目の前の彼は、ひょうひょうとしたおじさん。

でも、そのままパン屋さんの前に置いても違和感がない。

おじさんがこれから幼稚園にいくわけはないけど。

彼は、5歳のときから同じ彼なのだ。

ポケットに手をつっこんでお金を出すとき、きっとちょっと首をかしげる。 

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