たいちゃん 2
大学を卒業して、新宿のメトロプロムナードは通らなくなった。
だからたいちゃんに会うこともなく、また地元で見かけることもなかった。
それからまた10年と少し経って、1歳になった息子を連れて、6月のお祭りに実家に帰った。
実家のあるマンションの1階はコンビニエンスストアになっていた。
息子を抱いて入ると、目の前にたいちゃんがいた。
たいちゃんは口髭を立てて、作業衣を着ていた。
少し太ったみたいだった。
作業衣の胸のところには、工務店の名前があった。
わたしは10年前に新宿で会ったときと同じに、彼の名前を呼んだ。
たいちゃんはまた「おお」といって、そのあと驚いた顔をした。
「こども」
「そう」
たいちゃんは軽くまるめた拳で、息子の顎にちょっと触った。
「かわいいじゃん」
「うん」
小学生のときのように二人で目を合わせた。
会計が終わって、わたしは息子に手を振らせて、たいちゃんと別れた。
そのあとは、まだ会っていない。