羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

きょうの料理

20代から、日常的に料理をしているわけだが、きょう気がついた。

上達はあまりしていない。

特別に得意にしている料理はないし、ある料理に凝って繰り返し作った経験もない。

 

大学を出た春から、土井勝料理学校に通った。

家庭料理の基礎を学びたかったからだ。

復習として家でも作るようにと先生にいわれ、素直に毎回作った。

ハヤシライスと蟹玉とかき揚げ。

父に好評だったのはこの三つ。

何度もリクエストされた。

秋になって母が手術のために入院し、家事と病院通いで料理学校にいく余裕がなくなってしまい、あえなく中退。

 

あのころのほうが、いまより料理はうまかったかも知れない。

蟹玉もかき揚げもいまは作らないのだから。

 

この20年以上は、こどもたちに食べさせることが料理のおもな目的だった。

極めていいかげんな母親なので、彼らの好き嫌いをなくそうなどとは一度も考えたことがない。

「きょうはなにが食べたい」と聞いて返ってきた答えに従って毎日作ってきただけだ。

 

いま一人で寝起きしているアパートのほうで、自分自身のために料理するとき。

面倒なのと気楽なのが半々の感じ。

できるだけ簡単にして、洗い物も最小限にしよう、とものぐさ根性も出てくる。

 

こどもたちに作ってきたのは(適当だったけど)愛情の行動だった。

自分のために作るのは、自分を正しく大切にする演習だろうか。