羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

虹のなかの黒

娘が幼稚園の年中組のとき、理事長先生が心臓のバイパス手術で入院された。

園児たちはおのおのお見舞いの絵を描くことになった。

娘が描いたのは、虹の下を自分とおにいちゃんとママが歩いているところ。

三人は四角のブロックで組み立てたような体型をしていて、虹のなかには黒の弧もあった。

 

文章はわたしが口述筆記。

きょうママとおにいちゃんとあるいていたらにじがでていました。

とてもきれいでした。

りじちょうせんせい、はやくよくなってください。

 

理事長先生を虹で励ますとはいいセンス、と親ばかを発揮したものだが、しばらくして会った画家の友人に、虹に黒があったのはなぜかしら、と聞いてみた。

彼は、小さい子たちが絵を描くのを見守る経験を持っていた。

 

こどもが黒を使うときにはね、際立った明るさを表したい場合があるんだよ。

虹が自分の印象に強く残ったことを描きたかったんじゃないかな。

 

また、人間をブロックでできたように描いたことについては、関節によってパーツがつながっていることを発見しているから、と説明してくれた。

 

こどもたちは、こうでなくてはならないという確信のもとに描いているのだ。

鮮やかさを描くための黒。

明るさを表す黒。

 

娘の心に虹がくっきりとかかったことを、とてもうれしく思った。