羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

lost decade

娘が小学校に入って日中の時間が自由になったころ、友人とよく出かけるようになった。

二人で立ち寄ったデパートの化粧品売り場で、男性のメイクアップアーティストにメイクをしてもらうことになった。

わたしの普段の生活と、これまでの様子を聞いた彼はいった。

「暗黒の10年でしたね」

 

つまり、息子が生まれてからの10年は、美容については暗黒時代だったと。

額にできた日焼けのシミもその証拠。

幼稚園の送り迎えを6年間したんです、わたしはかろうじていいわけをした。

 

そこから遡ること10年と少し。

わたしは初めての母親学級に参加していた。

講義する助産師さんは断言した。

「これから10年間は自分の時間はありません」

 

息子が生まれた4年後、娘も生まれたから14年間は自分の時間がない状態かと思っていたが、美容の暗黒時代のほうは10年で済むならよかった。

そう思って、そこからは美容に邁進することになる。

 

といっても、いわゆる美魔女になろうというわけではなくて、あくまでも「自社比較」で女性らしく優しく、また晴れやかな表情でいたい。

努力の成果か、かなりへこたれているときにも、道で会った人からは必ず「元気そうですね」といわれる。

 

それは望むところなのだ。

顔で笑って心で泣いて。

いや、心でも泣かないで、ルージュを引いて胸張っていこう。