羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

雨のハードボイルド

池波正太郎の『鬼平犯科帳』。

テレビドラマを見て読みはじめて、この一行に出会った。

 

「雨のまま、夜になった」。

 

しびれた。

ハードボイルドとはこのことだ、と思った。

 

朝からの雨だとこの気分にはあまりならない。

午後遅めの時間から降りだして、雨のまま、夜になるのでないと。

そんな日があると、雨を見ながらつぶやくのだ。

 

「雨のまま、夜になった」。

 

とくにいいのは、雨のまま夜になりかけの時間だ。

新しいアスファルトが濡れてきらめいている。

車のヘッドライトが近づくと、もっと輝くところができる。

輝きは車を追って流れていく。

彼女はその岸に立っていた。

 

と、自分を三人称で書くほど、ひたってしまう。

江戸の町の描写が、現代の東京にも似合うかっこよさ。

夜のはじまりは雨こそ。