羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

カリグラフィー

アルファベットの手書き文字にとても惹かれる。

カリグラフィーという、リボンで書いたような飾り文字の教室があると知って、すぐに入ったのは87年頃だった。

 

専用のペンと瓶に入った水性インク、45度の傾斜をつけた台を用意。

紙を台に固定し、平たいペン先を45度の角度に構えて紙に当て、そのまま文字を書いていく。

45度のまま上に持っていくといちばん細い線が書けて、縦に下ろしてくるといちばん太い線が書けるが、真下に下ろすことはなくて、つねに7度の傾斜をつける。

言葉ではわかりにくいと思うが、その定まったストロークがリボンのような線を描いていくのだ。

 

基本のイタリック体を半年の初級コースで学んだ。

クリスマスカードや、結婚のお祝いのカードを書いたり、アルバムの表紙の題字を書いたりして楽しんだ。

 

いちばん書きたかったのはハーフアンシャル体という、クラシックな字体だったが、仕事が忙しくなって中級コースに進むことができなかった。

 

世の中のロゴには、正統派のカリグラフィーはなかなか見られない。

いちばん細くなるべき線(リボンでいうと厚みの部分)が細くなかったり、7度の傾斜がついていなかったり、文字の形の細部が甘かったりする。

そういうのを見るとじれるような気持ちになるが、いまは自分で書いていないからしかたない。

黙って見て過ごすのみ。

 

洋画を見ていて、手書き文字が出てくるとわくわくする。

いままでに見たものでいちばん素敵だったのは『スリーピー・ホロウ』のジョニー・デップの役が書いたことになっている文字。

何体とは分類できないオリジナルな形で、知的な印象が役柄とストーリーにぴったりだった。

 

言葉が好きということは、わたしのなかでは文字が好きであることに直結する。

それも、万年筆やつけペンで書いた速度の感じられる文字がいい。

アルファベットならばカリグラフィー。

また始めてみようかな。