羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

君住む街角

初めて映画を観たのは4歳のときで、日比谷のみゆき座、『マイ・フェア・レディ』だった。

 

イライザがヒギンズ教授の家に引き取られて、メイドたちにむりやりお風呂に入れられるシーンが怖かった。

湯船にまっかな入浴剤みたいな粉末をぱあっと溶かしたのが、イライザの悲鳴とかぶって、ひっとなって震えたのだけれど、大人になってから観たら、入浴剤なんて入れていなかった。

 

映画はそれぞれの記憶のなかで変わってしまうという。

わたしも最初の映画から見ていないはずの映像を足していた。

 

怖かったシーンはあったが、こども心にうっとりとした曲もあった。

「君住む街角」だ。

ヒギンズ教授より、こっちのおにいさんのほうがずっと素敵。

シルクハットとフロックコートがグレイだったが、これも記憶のなかではラベンダー色に変わっていた。

 

ルックスだけではなく、好きな人を想って街のなかを歩くというシチュエーションが素敵だと思ったのだ。

4歳にしておませ。

 

これが「三つ子の魂」というものだろうか。

このシーンはわたしのロマンティックの基本型になっている。。

通りの景色に恋心が重なるところがきゅんとするのだ。

 

イライザについては、口に大きな飴をいくつも入れて発音の練習をするところがいちばん印象に残った。

飴に惹かれたわけで、これはこどもらしかったな。