羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

一対一の関係

リンドバーク夫人の『海からの贈物』(吉田健一訳・新潮社文庫)を初めて読んだのは、まだこどもを持つ前だった。

文章のなかで印象的だったのは「こどもたちはきょうだいが何人いようと母親とは個別の関係を持ちたがっている」というくだりだった。

 

わたしは一人っ子で育ったので、母親との関係はつねに一対一だった。

きょうだいがいる場合の一対一の関係とは、それを求める気持ちとは。

読んだだけではそれは想像はできなかった。

 

娘が生まれる前から、このくだりを何度となく思い出していた。

こどもは二人になるけれど、一対一の関係をわたしが二つ持つということが基本で、その上での三人の関係なのだ、と考えていた。

そして、前にも書いたように、息子が甘えたかったのに甘えられなくてその寂しさと登園拒否で(自分ではそうと気づかずに)表していたことで、実際に、一対一の大切さを知ったのだった。

 

三人で過ごす時間を楽しむのとは別に、息子娘とそれぞれと話す時間を持つ。

それは習慣になった。

この数年間は、娘と出かける機会が増えたが、息子とも、よく外でお昼を食べたり、お茶を飲んだりする。

そのときには、彼の話だけをするようにしている。

 

そういう対応をしてきて、こどもたち同士がばらばらということはない。

二人は二人でとても仲がよい。

でも、わたしと二人だけでしたことや食べたものについてはお互いに報告はしない。

同じ店に三人でいけば、三人で楽しく食べるのだけれど、わたしと二人だけで食べたときの話はしないのだ。

面白いものだと思う。

 

個別の関係を大切にすることで、こども同士の関係も、わたしと三人の関係も良好に保たれる。

家庭内交際費はかさむが、わたしにとっても、こどもたちにとってもこれから先も大切なものを作っていくためだ。

三人の間だけではなく、これを基本として、他の人たちとの関係も信頼で一つ一つ結べるように。