羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

まさかの片づけ

その本は避けて通っていた。

最初に見たのは中央線の車内のドア横に掲示された広告だったと思う。

『人生がときめく片づけの魔法』(近藤麻理恵著・サンマーク出版)。

かわいらしい女子大生のような著者近影と「片づけ」のギャップ。

それにしても「人生がときめく」「魔法」とは。

片づけ苦手歴=人生の長さであるわたしには、眩しいやら鬱陶しいやらでとてもじゃないけど近づけなかった。

 

それが今月初めのある日、友人と待ち合わせた書店で、なんとなく手に取るやいなや、そのままレジへ持っていってしまった。

帰宅後読了までに数時間。

 

著者の勧める片づけプロセスは論理的で徹底的。

他の片づけ専門家とはまったく違うことをいっているのがわたしにもわかった。

彼女の片づけのキャリアについても興味を引かれた。

5歳で主婦向けの雑誌を読みはじめ、15歳から本格的に片づけ研究に取り組み、大学2年のときには片づけコンサルタントとして仕事を受けるようになったという。

 

おこがましいのだけれど、わたしの物書き人生も、似通った年表になる。

その道しか歩めない者の人生の双六はコマの構成が似ているのだ。

 

そして翌日から片づけの実践。

衣類、本、書類、小物類の順で、ときめくものだけを残していく。

場所別ではなく、物別に進めるのが彼女の方法だ。

 

出たゴミ袋6つ、もうときめかない本を売ったお金が5000円。

さらに、発見されたスーパーマーケットのエコポイントカード17枚中15枚が3000円のお買い物券になった。

1週間でまさかの片づけ成功。

クロゼットと本棚、台所の引き出し、洗面台周り、ぜんぶすっきりした。

 

いったん片づくと、すっきりを維持するのが楽しくなる。

片づけようとするだけで疲れていた半月前の自分を思うと別人のようだ。

一人暮らしというよりも、部屋と自分の二人暮らしになったような感覚。

 

片づいてないといけない、片づけられないのは恥ずかしい、そういう否定的な自分を責めるような気持ちがなくなり、自分にもできるという自信に乗り換えた感じだ。

誰かに見せるための片づけではなくて、自分を大切にするための片づけ。

それが思ったより簡単だったということも強調したい。