羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

総額

わたしが外でお茶を飲みすぎていることは明らかだ。

自分のお小遣いでお茶を飲みはじめたのは電車通学を始めた中学生のとき。

それからいままでにお茶に支払ったお金はおそらく、数百万円だろう。

いわゆる「外車が買える」金額。

土地があれば家も建つかも知れない。

 

つまり、わたしは見えない「お茶ハウス」から見えない「お茶セデス」に乗って毎日お出かけしているのだ。

すっごくリッチな気分。

路上駐車してカフェに入っても誰にも文句をいわれないし。

 

そのお茶人生で得たものはなにか。

なにかあるのかという問いはちょっと野暮。

いつどこのどんなお店に入っても、リラックスして飲めるのは確かだけれど。

それがなにかの足しになっているかといえば、なんの足しにもなっていない。

 

だいたい、お茶はおなかの足しにだってならない。

茶腹も一時なんて、2時間も保つわけがない。

 

だけど明日も、わたしはお茶セデスを駆っていくだろう。

どこかの街のどこかの喫茶店に。

紅茶のおもてに触れる唇。

これもまた優しいくちづけ。