羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

ベビーカステラ

お祭りの決まりはベビーカステラ

ホームタウン品川でも買ってきた。

 

神社の境内の夜店のなかで、ベビーカステラの屋台だけは長い行列。

おいしいと確信して後ろについた。

 

並んでいるあいだに、焼いているおじさんの様子を見る。

うーん、どうも見覚えがある。

イメージのなかで30年くらい若返らせてみる。

 

やっぱり、縁日にもきていた人かなあ。

地元では七のつく日が虚空蔵様の縁日で、夜店が出るのだ。

そのときもベビーカステラはあったはず。

当時はたいしてたくさん食べられなかったので、10個くらいを白い薄紙の袋に入れてもらったっけ。

 

いまは自分もよく食べるし、こどもたちも好きなので、40個1000円を張り込んだ。

おじさんと娘さんなのか20代の女性が、台を二つ、L字型に並べて焼いている。

わたしの番がきて「40個ください」というと、おじさんはL字の横のほうからあるだけ10個くらい取り、それから縦のほうを開けて焼けたてを手前にぽこぽこぽこと落としてから、スコップで見当をつけながら袋に入れた。

かなりおまけしてくれている模様。

 

屋台から10歩も離れないうちにまず一つ食べてみた。

あつあつで香りがよくてふっくらしている。

上々だった。

袋をのぞいてみると、型からはみだした羽がたくさんついている。

羽をつけるのがおじさんの流儀らしかった。

形は不揃いになるけれど、一つ一つにおまけがついているみたいでなんだかうれしい。

 

優しい甘さに、ふっと、浴衣に締めていたピンクに黄色の絞り模様のある三尺を思い出した。

糊のきいた浴衣の袖の肌触りも。

お祭りの夕方の味。