電車の音
わたしの部屋は、線路沿いから数えて2本めの通りにある。
これからの季節はとくに、窓を開けていると電車の音が聞こえてくる。
母を迎える前に、部屋の準備をしていたとき。
わたしのベッドの配送を待って、夜、まだなにもないここに一人でいたことがある。
11月の末で、上着を着たまま床に腰を下ろしていた。
電車の音が聞こえてくる。
上りと下りで数分おきだったが、耳障りではなかった。
かえって気持ちが落ち着いて、ゆっくり配送を待つことができた。
住みはじめてからも電車の音はやはり気にならず、心地がよいくらいだ。
夜は眠気を誘ってくれる。
ととん、ととん、という線路のリズムと、シャーという列車の通過音が重なる。
聞きながら、ときどき、ベッドを待っていた夜のことを思い出す。
母と同居する不安と、新しい生活への期待。
20年以上ぶりに感じる「一人」の感覚。
じつはそのとき、インタフォンの調子がよくなくて、配送の人がきたのに気づかず、わたしは勝手に待ちぼうけしたのだった。
帰るとき不在連絡票に気づいて、翌日またきてもらうことに。
いまはすっかり住み慣れたこの部屋と、寝心地のいいベッド。
電車の音に伴奏された生活は、幸せに続いている。