羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

夢の名残り

けさがたまで、とてもリアルな夢を見ていた。

目覚めているときの現実となんら変わらない、一つの世界のなかにいた。

内容は少しも覚えていない。

「リアルな夢だった」ということしか。

 

それはそれでいい。

夢は夢、こちらの現実は現実。

ただ、一日、起きて動いている間に、ふっと、なにかがよみがえってきそうな気持ちになる。

そこで現実も、ふっと、立ち止まる。

 

いま踏んでいるこの床は、夢の天井だったのではないか。

風をはらむカーテンが次の風で吐き出すのは、夢の世界の空気。

夢が現実に干渉してくる。

 

街を歩けば、誰かが、わたしの知らないわたしの名前を呼ぶ。

目に見えない、なにかの気配が寄り添ってきたかと思うと、にっと笑う頬の動きを残して離れていく。

 

夢にすれば、眠っているのはこのわたし。

よく寝てるね、まだしばらく起きないよ。

 

現実にはつかみどころがない。

これがほんとうに起こっていることなのかどうか、わたしにはわからない。

五感は現実に震えるけれど、夢のなかでもおいしい水は飲める。

 

20年くらいに見た夢の一節を、何度も思い出すこともある。

たとえば、ネオンサインが郊外の道を照らし、わたしは白いトレンチコートを着た男性とそこを歩く。

現実の記憶と夢の記憶。

なにが違っているだろうか。