オルゴール
心のなかに、オルゴールを持っている。
人生のほんの始まりのときに、鳴らなくなってしまった。
バレリーナは踊らない。
わたしはときおり蓋を開けて、聞こえない調べを聞き、またそっと閉じた。
オルゴールがまだ鳴っていたころ、休日をいつもいっしょに過ごす人がいた。
わたしたちは、他人のなかから互いを見つけた、心の兄と妹だった。
彼が越していったあと、わたしには苦しい時が訪れた。
こどもの立場では背負わなくていいものを、たくさん背負った。
大人になっても、それを下ろすことはできなかった。
下ろしてもぜんぜん構わなかったのに、つらかったね、といわれたい一心で、重みにひしゃげた自分をやめなかったのだ。
いつも笑顔でいたが、その下の気持ちを誰かにわかって欲しくてしかたなかった。
少し前のこと、故郷の町で、彼と偶然に再会した。
ともに驚き、喜びあった。
オルゴールは鳴らないだけで止まってはいなかった。
大きな歯車が長い時間をかけて回ってきて、それより小さな歯車の動きにかちっと刻みを合わせたとき、調べは再び流れだす。
笑顔は幸せだけの意味になり、つらい思いは調べのなかに溶けていく。
バレリーナはくるくる踊っている。