羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

銀の匙

最初の記憶は2歳になる前の夏、蒲郡ホテルのダイニングルーム。

部厚いテーブルクロスにふんわりと沈んだ銀のカトラリーだった。

フィンガーボウルの側面にスプーンが写っていたのを覚えている。

 

その記憶のためか、銀の食器が好きだ。

デパートの売り場でフランス製のそれを眺めていると、幸せな気分になる。

レストランや喫茶室でも、銀のカトラリーが使えるとうれしい。

 

ぽってりとした手触りが優しく、温かい。

銀の食器は表面が冷たくないのだ。

 

でも、自分の家で使うとなると、ためらってしまう。

あっという間に黒くなってしまうのではないかと。

銀食器のメーカーは、毎日使っていれば特別な手入れはほとんど必要ないと説明しているようだ。

 

ティースプーンにしては大きいけれど、そう呼ばれている銀のスプーンがある。

デザインはさまざま。

クラシックな唐草やリボンの縁飾りも素敵だ。

持ってみるとどれも重みのバランスがよく、紅茶をくるくる回すより、アイスクリームを食べたくなる。

お店の人は、毎朝これでシリアルを食べています、といっていた。

舌触りも優しいのだろうなあ。

うっとりと聞き入るわたし。

 

銀の匙をくわえて生まれてくる」という表現があるけれど、後天的にくわえてみたい。

シリアルとミルクをのせて。