羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

コーヒーショップで

いつも立ち寄るコーヒーショップで、著しく痩せた若い女性が目の前を通りすぎた。

コウモリの翅を見るような腕がいたいたしい。


自分の過去の姿を思い出さずにいられない。

彼女の段階までは痩せなかったが、7歳から12歳までに3回繰り返した。

いまでも、尾骶骨は隠れない。

悲しいお尻のままだ。


彼女の家族や周りの人たちも、心配していることだろう。

でも、心配では救えないのだ。

おそらく。


わたしは紅茶を飲みおえて、街に出る。

痛みが胸に深く食いこんでくる。

どうしたら、彼女に丸い頬を取り戻せるのだろう。


わたしは、どうやって抜けでたのだったか。

親からは救いは得られないという、ある種の絶望を自分のものとしたからではなかったか。

これ以上自分の体を損なってはいられない、と決意したのでは。


しかし、じつのところはよくわからない。

体のほうがギブアップして、食べはじめたのかも知れない。


幸せになろうとする意志。

女らしく豊かに美しくなって、愛されたいという気持ち。

わたしは何十年も遅れて、いまそう思っている。


なんでもいい。

柔らかいシフォンケーキでも、フルーツが入ったきれいなロールケーキでも、かわいらしいパフェでも。

彼女の口に入って、幸せの種となりますように。