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羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

カップホルダー問題

きょうの映画鑑賞では、前の人の座高問題はほぼクリアできていた。

左前の人がちょっとかすり気味だったけれど、角刈りに近い髪型だったので、わたしが姿勢を崩さなければスクリーンが欠けることはなかった。

 

その代わりに起こったのは、上映前のカップホルダー問題だった。

 

わたしはかつて迷っていた。

座席の肱置きの先端に用意されているカップホルダー。

座って右か左かどちらに入れたらいいのだろう。

3年ほど前、娘といっしょにいったときに、そう言葉に出してみた。

 

「ふつー右じゃない?」

彼女はあっさりと答えた。

右以外のどこに入れようというのだといいたげに。

 

そうか、そうだね、みんな右手で取りたいもんね。

わたしは納得した。

それまではなんとなく、隣の人が入れていない方に入れていたのだけれど、それからは自信を持って、隣の人がいてもいなくても、右に入れられるようになった。

娘には感謝している。

 

ところがきょう。

ロビーで買ったホットコーヒーのカップを片手に、M11の座席に、人のいない左から入っていったら、M12にはすでに男性がいて、わたしが入れるつもりのホルダーにお水のペットボトルが入っていたのだ。

 

大学生かな、つまり、息子くらいの年格好の男の子だった。

さりげなく、彼の右側を見てみると、右のホルダーは空いている。

さらにすかして見てみると、彼の右隣M13の男性は右に入れていた。

わたしは思った。

M12くんは左利きなのだ。

 

幸い、わたしの左隣M10はまだ人がきていない。

わたしは左のカップホルダーにコーヒーを入れた。

M8とM9はカップルで、予約するときわたしのM11と間を一つ空けて取ったのかも知れない。

このままM10の人がこなければM12くんに動かしてもらう必要はない。

わたしも左側のままいけばいいのだ。

 

それで、コーヒーを飲みはじめたが、まだ熱いカップを左側から取ったり置いたりするのはけっこう難しいものだということがすぐにわかった。

でもね、いいよM12くん。

わたしだって娘に聞くまでは右も左もわからぬ若輩者だったのだ。

ましてきみが左利きというならば(聞いてないけどね)思いっきり左でペットボトルを操作してくれたまえ。

 

上映時間5分前。

係員の説明があって、iPhoneの電源を切っているときに、左の通路に人の気配が。

サラリーマン風の男性が、コーラとポップコーンを持って入ってくる。

ああー、M10きちゃったかー。

わたしはそっとコーヒーを持ち上げた。

M10氏は座りながらコーラをそこに入れる。

 

さて、左にコーラ、右に水ボトル。

わたしはまんなかで熱いコーヒーを持ったまま前を見ている。

わたしは息を二回吸ってから、M12くんに声を掛けた。

 

「あの、ペットボトルを右のホルダーに移していただけますか」

なんかすっごくかわいい声を出しちゃった。

M12くんは、あっ、どうもっ、すみませんっ、と恐縮してすぐに移してくれた。

やっぱり爽やかな青年だった。

 

すぐに場内は暗くなり、予告編が始まった。