羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

ステージフライト

小学校3年生の時から万年学級委員で、教室の前に出て話すことも、体育館の壇上から話すことも、なんともなく育ってきたはずなのだけれど。


大人になるにつれ、人前で話すことが苦手になってきた。

文章を書く仕事に就いても、まれにそんな機会はある。

たいてい、声が震えていた。


それでもなんとかごまかしながらやってきたのだが、学級委員カルマが災いして、PTA会長になってしまったのが8年前。

そしてその日はやってきた。


市役所の会議室で、あるPTA事業のプレゼンテーションをすることになったのだ。

補助金をもらうためだった。

原稿はきっちりと書き、練習もして、いざわたしの番がきた。


参加者は10人ほど。

市役所側は5人ほどで、会議室はすかすかの状態。

そこでわたしはひどいステージフライトに襲われたのだった。


心臓はいわゆるバクバク、口から出そう。

声は震えて息が継げない。

原稿を読み上げることすらできず、倒れてしまいそうだった。


体調が悪くなりました、といえばよかったのに、それもできなくて、しどろもどろのまま、お辞儀して席に戻った。

市役所の人もなんといっていいかわからないようだったし、応援にきてくれた副会長も同じだった。


あれはなんだったのだろう。

失敗してはいけない、上がってはいけないというプレッシャーか。


以来、人前に立つのが怖くなった。

人と話すのも怖くなってしまうこともある。

(わたしとふだん話している人には思いも寄らないことだろうけれど)

その相手が怖いのではなくて、緊張してしまう自分が怖いのだ。

嫌いな人ではなくて、好きな人なのにそうなる。

心臓バクバクが腎臓まできて背中がズキズキ痛い。


フライトっていうくらいだから、酔い止めみたいな薬が欲しい。

偽薬でもいいから。