曇った日は遠くが見える
空が和紙で裏打ちされたように白く見える曇りの日。
東京らしくて好きだけれど、もうずいぶん前から東京も青空の日が増えてきたように思う。
ともあれ白く曇った空の下の東京の景色。
遠いところまでよく見える。
電車の窓からは送電塔が、シャープペンの芯で組み立てたみたいに。
週刊誌でアルバイトしていたころ、表紙モデルの選考も手伝っていて、撮影をする写真家と話す機会が何度かあった。
編集部のあるビルの高い階の部屋の窓辺に並んで立っているとき、わたしは彼に、曇っていて遠くが見えますね、といった。
気さくな彼は、そんなことないよ、晴れていて明るい日のほうが遠くまで見えるよ、と自分も明るく顔を輝かせていった。
わたしは、とくに反駁しなかった。
わたしの思い入れに過ぎないのかな、とも感じて。
しばらくして、あるパーティで、別の写真家と会った。
彼もまた精力的に仕事をしている人だった。
わたしは彼の、街の人々を撮った写真が好きだったから、街の話を少しした。
それで、曇りの日のこともいってみた。
遠くが見えますね、と。
シャイな早口で彼もいった、そうだよね、曇りの日って遠くがよく見えるよね。
遠くがよく見えるのは、晴れた日か、曇った日か。
正解がどちらかにあるのではなくて、外の世界をどう見ているかの違いなのだろう。
空が青いと気持ちがいいけれど、わたしは曇りの日も待っている。