羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

2015-07-01から1ヶ月間の記事一覧

東京には空がない、ですけどそれがなにか?

生まれも育ちも東京下町。 自然は苦手だった。 20代のあるとき、よんどころない用事で、自然豊かな某県に丸三日滞在したことがある。 東京に帰ってくるなり銀座に直行し四丁目の交差点のまんなかで深呼吸。 これよ、これ、と叫んだものだ。 いい空気を三日も…

浴衣がけで

ことしも花火大会の季節。 街で浴衣姿の女性を見かけるのはいいものだけど、いいたくなってしまうのだ。 あのさ、もっと涼しく着ようよ。 浴衣は基本、藍と白。 帯はウールか博多の半幅で小さめにきりっと文庫結び。 髪はショートもかわいいし、アップにする…

ぷかぷか

「あなたになら言える秘密のこと」(2005年・スペイン)という映画のなかで、ヒロインが、自分にプロポーズをする男性に、こんなふうにいった(と記憶している)。 「わたしはいつか、泣き出して止まらなくなり、家じゅうが涙に沈んでしまうかも知れないのよ…

夏はパナマ

ここ数年、パナマ帽を街でよく見かける。 男性はもちろん、女性もロングヘアをまとめてお洒落にかぶっていたりする。 パナマ帽をかぶるコツは、鼻からかぶることだと思う。 帽子を片手で縦に持って鼻にかぶせるようにして構えて、手首のスナップで頭にのせる…

朝顔

こどもたちがそれぞれに小学校1年生だった年の一学期の終わり。 学校から朝顔の鉢を持って帰ってこなければならなかった。 こども一人ではとうてい運べない。 わたしが自転車に乗って小学校まで往復できるようになったのは、娘が2年生の秋からだから、朝顔の…

生涯カジュアル

自分の服の趣味を考えてみたとき、端を発しているのは十代。 中学高校が私服で、毎日、きょうはなにを着ていくかを考える必要があった。 中学の最初のうちはブレザーの上下などを着ていたが、すぐにカジュアルになり、ジーンズもよく履いた。 とにかく、なに…

ニックネーム

おかげさまで「羽生さくる」というペンネームをよく覚えていただいている。 ペンネームを考えようとしたとき、友人が制作したスイカズラの木版画に目が留まった。 スイカズラの花はティンカーベルみたいでかわいい。 スイカズラは英名でハニーサックル。 ハ…

first contact

育児をしていて、感激することは山ほどあるけれど、なかでもベスト1がふたつ。 息子が生まれて4か月経ったころだったろうか。 日付はメモしていなかったが、夏の盛りだったはず。 ベビーベッドの手前の柵を下ろして寝かせ、おむつを替えてベビー服を整えた。…

また会える

愛用MacBookをこどもたちのところに置いてきてしまって、iPhoneでチコチコ。昨夜ある人のことを思い出していた。編集者としては鬼才。新コーナー、新連載、新企画、新雑誌、新プロジェクト…新聞社の出版局で、およそ新しいものを次々に繰り出していった人だ…

水筒持参

温かい飲み物を入れて持ち歩くマグや水筒が好きで、いくつも持っている。 お茶代節約のために持ち歩くものだとすれば、お茶は外で何杯でも飲むし、マグはいくつも持っていて、幾重にも浪費なのだけれど、どちらも好きだからしかたない。 映画館の売店で飲み…

鏡のなかから

『三丁目の夕日』を地でいくわたしの幼少期。 これは母から聞いた生後10か月くらいのときの話。 4畳半のアパートで暮らしていたわたしたち親子3人だったのだが、お金に少し余裕ができて、母は洋服ダンスを買おうと思った。 わたしをおぶって家具屋さんにいっ…

演芸鑑賞遺伝子

母、わたし、娘の三代の血統については少し前に書いた通り。 母、わたし、息子の血統もある。 それは演芸鑑賞のセンスだ。 昨夜息子と二人で漫才のテレビ番組を見た。 あるコンビについて息子が「品が悪くないね」といった。 ああ、それ!とわたしは指を立て…

解題

母の見舞いに花を持っていった。 薔薇、カーネーション、ダリア、鶏頭、赤を基調にした小さなアレンジメントだ。 母は声を上げて喜んでくれたが、花の名前はもう覚えていない。 母はわたしの名前も思い出せない。 母がわたしに名前で呼びかけてくることはも…

something blue

二十代に書いた散文のなかに「銀座で青を探す」というテーマのものがあった。 当時は、松屋デパートの通りに面したショウウインドウの一つ一つに、濃い青のテント屋根がついていた。 MATSUYAのロゴが入った独特のブルー。 見るだけで爽やかで洒落た気持ちに…

感覚を包むもの

前回の一人暮らし時代。 銀座の伊東屋で買った贅沢な原稿用紙に、ぺんてるのプラマンというペンでエッセイを書きためていた。 クリーム色の地にグレイの細い罫で横広の枡が引かれていて、明るいブルーのインクがよく合った。 その原稿が日の目を見ることはな…

祈りの光

こどもの重い病気について考えるとき、心と体は無力さに沈んでいく。 自分のこどもたちが小さいころ、なによりも怖いのは病気や怪我だった。 ほんとうに幸いにして二人とも、病気も怪我も、軽いものを経験するだけで大きくなった。 でも、こどもたちの健康を…

七転び八起き

非力でもあることから、家事はぜんぶ苦手だ。 洗濯機から、よじれた洗濯物をひっぱり上げるだけで午前中のエネルギーを使い果たしてしまう。 そこからシーツを竿に干すなんて、もう、ぜったいに、無理。 なんてことをいっていても、ジーニーは現れないので、…

言葉の夢

認知症になった母の介護を、2011年の春から通いで1年半、12年12月からは同居して約2年続けた。 昨秋、痙攣発作を起こし、緊急入院から手術、術後の療養、リハビリテーションのための転院を経て、この春に老健施設へ入所。 現在81歳。 いまの状況を見る限りで…

銀の匙

最初の記憶は2歳になる前の夏、蒲郡ホテルのダイニングルーム。 部厚いテーブルクロスにふんわりと沈んだ銀のカトラリーだった。 フィンガーボウルの側面にスプーンが写っていたのを覚えている。 その記憶のためか、銀の食器が好きだ。 デパートの売り場でフ…

morning glory

正直にいいます。 きょうは頭のなかが真っ白。 きのうの「オルゴール」にこれまでの自分をぜんぶ書いてしまったみたい。 7時に起きて、濃い紫色の朝顔が咲いたのを見てからの一日。 とても穏やかだった。 といっても、出たり入ったり、映画まで観にいったり…

オルゴール

心のなかに、オルゴールを持っている。 人生のほんの始まりのときに、鳴らなくなってしまった。 バレリーナは踊らない。 わたしはときおり蓋を開けて、聞こえない調べを聞き、またそっと閉じた。 オルゴールがまだ鳴っていたころ、休日をいつもいっしょに過…

柳眉または蛾眉

メイクアップのなかでいちばん難しいのは眉を描くこと。 わたしはそう思う。 ファンデーションを塗って、チークをつけて、口紅を引く。 次に眉を描くのがわたしの手順だ。 淡くグレイがかったブラウンのペンシルはだいぶちびているのだけれど、色とパウダー…

天地創造

中学からみんなで観にいった映画が何本かある。 わたしたちが入学してからは聖書にまつわる映画だった。 「ベン・ハー」「十戒」「天地創造」「ジーザスクライスト・スーパースター」。 「ジーザスクライスト・スーパースター」には感動して、もう一度観にい…

礼拝当番

きのうに続いて、中学高校の話。 そこはプロテスタントのミッションスクールだったから、毎朝礼拝があった。 でも講堂は一つ。 高校が月・水・金に講堂で礼拝、中学は火・木だった。 だから、中学は月・水・金をホームルームで、高校は火・木を教室でホーム…