羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

2015-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ステージフライト

小学校3年生の時から万年学級委員で、教室の前に出て話すことも、体育館の壇上から話すことも、なんともなく育ってきたはずなのだけれど。大人になるにつれ、人前で話すことが苦手になってきた。文章を書く仕事に就いても、まれにそんな機会はある。たいてい…

鶉の卵

友人と会ってこどもたちの話をしていたとき、父方の祖父母、母方の祖父母、四人ともと触れあったことがあるなら、それは、肉親の縁によく恵まれたということではないか、と気づいた。わたしのこどもたちは四人とも知っている。大学生の現在も、祖母二人は存…

gigi

父が60代後半の頃の話。同じマンションに住む、喫茶店の不良マスターと親しくつきあっていた。マスターは、二軒の店を軌道に乗せ、三軒めを作りたいという。ついてはマシンで淹れるコーヒーの専門店はどうだろう、小さいカウンターだけの店で、おとうさん(…

母娘熱唱

娘が高校に入ってから、家のすぐ隣にあるカラオケ店に二人でいくようになった。 定期試験明けや、長い休みの暇すぎるときなど。 なんといっても隣だから、雨が降ってもほとんど傘が要らない。 平日の日中だと、カフェにいくより安いくらいだった。 そこにWii…

fragile but unbreakable

「恋のためらい/フランキーとジョニー」(1991年・アメリカ)の、あるシーンを思い出している。 ニューヨークのダイナーのウエイトレス、フランキーは、刑務所から出てきたばかりのコックのジョニーに、熱く愛されてとまどう。 以前に同棲していた男性に暴…

かわいくなるまで待って

前世紀の話になるが、こういうタイトルの恋愛エッセイを出版したことがある。 『かわいくなるまで待って』(大和書房) パロディ好きのわたしのこと、このタイトルもオードリー・ヘップバーン主演の映画の『暗くなるまで待って』のもじり。 いま思い出したの…

一皿の縁起

先週、かつてのクラスメイトと新宿のガレットの店で食事をした。 ガレットというのは、フランスのブルターニュ地方で作られる蕎麦粉のクレープ。 ホットケーキ、パンケーキ、ワッフルのようなものが好きなわたしの、比較的新しいレパートリーだ。 なぜきょう…

父の戦 3

少し前に娘と観た日本映画。 「第二次大戦後、特務機関の将校たちが中国から大金を持ち帰って近海に沈めた」という設定だった。 「おじいちゃんも持ち帰ってきてくれてればねえ」と二人で笑った。 父が実際に中国から持って帰ってきたのは、二枚の軍用毛布だ…

父の戦 2

戦争は終わったが、父はすぐには帰国できなかった。 ひどいインフレーションが起こり、二つのトランクに足でお札を詰め込んで、上海に向かった。 そこで時機を待つことになる。 上海の租界のホテルに滞在していたらしい。 日本人も少なくなかった。 演奏家の…

父の戦 1

8月15日。 きょうから何回か、父から聞いた戦争の話、父が体験した戦争の話を書こうと思う。 80歳になるころ、父は体験を自ら綴りはじめて、自主出版で小さな本を作った。 いまそれは手元にないので、これからの文章はわたしの記憶だけによることになるが。 …

カップホルダー問題

きょうの映画鑑賞では、前の人の座高問題はほぼクリアできていた。 左前の人がちょっとかすり気味だったけれど、角刈りに近い髪型だったので、わたしが姿勢を崩さなければスクリーンが欠けることはなかった。 その代わりに起こったのは、上映前のカップホル…

合掌

父に対して、とても複雑な思いを抱いてきた。 小さいころは、お父さん子も極まっていて、アパートに帰ってくる足音を聞き分けていたらしい。 帰ってきた父が、やれやれと胡座をかくと、即、その肩によじのぼり、ずっと肩車。 そのうち足の先が父の膝につくよ…

座高問題

映画鑑賞や観劇の際、前の座席の人の座高に悩まされることがよくある。 誰にでもよくあることだろうか。 わたしは座高が低いから、というと自慢に聞こえるかしら。 ようするに小柄に近いので、前に背の高い男の子が座ったりするとたちどころに困る。 映画館…

生活感皆無

わたしが持っていないものの筆頭。 生活感。 本人はそんなふうには思っていないのだけれど、人はけして見つけてくれないもの。 毎日スーパーマーケットに買い物にいっているし、そのうち3日に1回は、ショッピングバッグから長ネギを突き出して帰ってくるし、…

コーヒーショップで

いつも立ち寄るコーヒーショップで、著しく痩せた若い女性が目の前を通りすぎた。コウモリの翅を見るような腕がいたいたしい。自分の過去の姿を思い出さずにいられない。彼女の段階までは痩せなかったが、7歳から12歳までに3回繰り返した。いまでも、尾骶骨…

手芸本

きょうもまた買ってしまった手芸の本。クロスステッチで刺繍した小布をはぎ合わせて作るピンクッションの本だ。編み物ならともかく、刺繍はほぼ未経験。できるかどうかわからないが、作品がかわいらしくてつい購入。これでもう来週にも材料を揃えて始めるん…

犬の名前

日本のあるロックンローラーが、公園でよく会う犬に勝手に名前をつけて呼びかけ「いつもかわいいな」といって飼い主に「何回いったらわかるんですか。この子はそんな名前じゃありません」と怒られたという話を息子から聞いた。母としていっしょに笑ったのだ…

にらみのあやちゃん

マンションの同じ階に住む3歳の女の子。仮に、あやちゃんと呼ぼう。きょうの午後、裏口からわたしが出たとき、あやちゃんはママの引く自転車の後ろに乗って現れた。ヘルメットをしっかり被って、こども用座席にきちんと座っている。ほんの一月会わないうちに…

They can't take that away from me.

フレッド・アステアの歌に、 君の帽子のかぶりかた 君のお茶のすすりかた その思い出のすべて 誰も僕から奪えない という詞がある。 映画では女性をかきくどく歌だけれど、思い込み人間としては、もっとせつない解釈もしてしままう。 愛する人を失いたくない…

夏休みはやっぱり短い♪

タイトルは大江千里のポンキッキーズ・メロディから。 夏休みになるとこどもたちと口ずさむ曲だ。 あしたから8月。 わたしの場合、夏休みがうれしかったのは7月中だけ。 8月に入るなり「もう終わっちゃう」と思っていた。 ずいぶんと悲観的なこどもだったも…