羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

2015-12-01から1ヶ月間の記事一覧

クリスマスに母を見舞って

母が入居した特別養護老人ホームは多摩の西部にある。 最寄りのJRの駅からはバス。 道沿いに、同種の施設がいくつも並ぶ。 広い敷地を確保できる地域だったのだろうか。 停留所から少し戻って信号を渡り、施設への道を曲がるとすぐに橋がかかっている。 欄干…

knitting fantasy

編み物の醍醐味は、自分の手元で次元が変わることにある。 毛糸は一次元。 正しくは、毛糸も立体だし、この世界にあるものだから三次元なのだけれど、ここは比喩として一次元。 それを自分の手で針に掛けて、からめたり引き抜いたりする作業を繰り返すことで…

冬至に

冬至のけさ。 朝日を見ようと、きわめて珍しく早起きしてみた。 部屋着にセーターとコートを着て、誰にも会わないことを願って素顔に帽子をかぶって。 しかし、早起きしたことがないから知らなかった。 アパートを出たところはガレージが左右にあって、空が…

いまがいちばん

同級生が集まると「加齢なる嘆き」が始まるようになった。 中学高校続いた女子校なので、何百回集まっても女性ばかり。 さっぱりしたものなのだけれど、それだけに、なのか、嘆きはかなりマジである。 知力体力の衰え、体型変化、肌の悩み、モチベーションの…

母のケース

母が認知症状を呈してから、1年半は通って援助をし、その後の2年弱は同居して介護した。 病状の変化による入院という形で離れてから1年2か月。 この春からは老健施設に世話になっている。 経過をすべて書ききることはここではできないが、発症から4年半過ぎ…

毛糸の国のアリス

編み物の季節がやってきた。毛糸の手触りに心が安らぐ。母に初めてかぎ針編みを教わったのは、小学校5年生のときだった。「不思議の国のアリス」のアリスを編みぐるみで作った。最初からずいぶん難しい作品に挑んだものだ。肌色の毛糸で顔とボディを編み、青…

ほんとうの…

歌詞でも詩でもコピーでも雑誌の特集タイトルでも、散文だったとしても、そこに「ほんとうの」という言葉が見えると、わたしは白けてしまう。「ほんとうの」それ以外は「うその」なの、と反抗的な態度を取りたくなるのだ。「ほんとうの優しさ」「ほんとうの…

添削の秘密

友人に挨拶の文章を見て欲しいという依頼を受けた。光栄なことと引き受ける。仕事として添削をするときにもそうなのだけれど、こう書いてみたらよりわかりやすいのではないだろうかというアイデアの出処が自分でも不思議だ。ただ、それがよいと思う、と言葉…

微笑みの色

大学生のときに参加していたミニコミ誌に書いたエッセイの一つに、口紅の話があった。 デパートの化粧品売り場へ、新色の口紅を見にいった。 ウインドウに近づくと、自分の顔が映った。 唇を微笑みの形にして、そこを離れた。 昔のわたしは慎みふかかったも…

007ダニエル・クレイグはなぜ憎めないのか

もともと好きだから、憎む必要はないのだけれど、現ジェームズ・ボンド役ダニエル・クレイグはいつ見ても憎めない顔だと思う。 理由はうすうすわかっていた。 意識下ではわかっていたけれど、自我が認めたがらなかった。 しかし、先日新作「スペクター」を鑑…