羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

2014-12-01から1ヶ月間の記事一覧

はじまりの町

みんなのはじまりのときが、一つの町で起こっていることを想像する。 はじまり町立小学校での運動会。 早朝の音楽室から聞こえるザイロフォン。 校門から出てくるアコーディオンの二人連れ。 小学校の隣には幼稚園がある。 水曜日の朝、コッペパンの入った白…

マーケットにて

そしてわたしのはじまりは。 最初の日に書いたように、マーケットの魚屋さんの前にいたときだった。 6歳だったと思う。 足元のコンクリートは水が浸みて黒い。 目の前の台には、魚が並んでいて、一面に銀色に見えた。 大きな氷がところどころに置いてあって…

コッペパン買って

男性は一人。 小学校の図工の先生を勤め上げた人だ。 わたしのはじまりの話を聞いて、彼は、あ、といった。 僕にもあった、と。 幼稚園のころ。 お昼はお弁当だったのだが、週に一度、水曜日だけはおかあさんにお金をもらって、近くのパン屋さんで自分でコッ…

音楽隊の行進だ

三人めは中学高校の同級生。 知りあってから現在までまったく雰囲気が変わっていない奇跡の人。 彼女のはじまりも小学生のときだった。 区の合奏コンクールの練習が大詰めに入った週末、先生は彼女ともう一人の女子に楽器を持ち帰るようにといった。 お休み…

音楽室の朝

二人めの女性は、ザイロフォンの演奏家。 小学校の音楽室が、自分のはじまりの場所だと話してくれた。 音楽の授業でザイロフォンに興味を持ち、もっと弾きたくてたまらなかった。 先生に話してみると、朝早い時間だったら弾きにきてもいい、といわれた。 翌…

トラックの内側で

運動会の徒競走のときだったのよ。 彼女は笑顔になって話しはじめた。 ゴールしたら、トラックの内側に入って、順位の旗の後ろに並んで座るでしょう。 次々にゴールしてくる組がいる。 周りは大歓声。 トラックをはさんだ向かいには低学年の子たちが小さな椅…

はじまりのとき

自分が自分になったのはいつか。 物心つく、という言葉があるけれど、それは幼い時期のある日、ふいにやってくる瞬間だと思う。 そこから、人生のゆくてに向かって、リボンのリールが投げられる。 伸びていく細いサテンの艶。 切れることのない意識の一筋。 …

初めての別れ

5歳になる少し前まで、立会川のアパートに住んでいた。 四畳半一間で、ガスコンロもトイレも共同。 昭和の中頃の話だけれど、いまの若い人には想像もつかない世界かも知れない。 わたしもモノクロ映画のように思い出している。 共同トイレの掃除に通ってきて…

東京の車窓から

電車の窓から、外を流れる景色を眺める。 本は読まず、眠ることもほとんどなくて、ずっと見ている。 中学に入ってからいままで。 のべで何百時間になるのだろうか。 千の桁に入っているかも知れない。 そこで脳裏に映しとった動画のなかの、幸せ部門ベストワ…

みなさまこんにちは、羽生さくるです。 ひさしぶりにブログ開設しました。 「忍冬」とはスイカズラ。 スイカズラの英名がハニーサックル。 ペンネームの由来です。 今度こそ長続きするように「百点」とつけてしまいました。 銀座の老舗タウン誌「銀座百点」…