羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

2015-03-01から1ヶ月間の記事一覧

書き留める

『親の家を片づけながら』(リディア・フレム著・友重山桃訳・ヴィレッジブックス)という本を読みはじめた。 近い将来、わたしも母の家を片づけることになるだろうから、予習のつもりで。 ほんとうは、もう片づけはじめていなくてはならないのに、まったく…

ゾロメのよろこび

その気になるとよく起こることの一つ。 時間を見ると、ぞろ目になっている。 始まると、一日に何回も見る。 きょうは、18:18と22:22。 最高は1日に5回だった。 車のナンバーも、777や7777を毎日のように見ている時期があった。 母の入院中、病院への往復のバ…

なぞの小鳥

このアパートに移ってきて2年半近く経つ。 当初から、上の階のどこかに小鳥がいるような声がする。 きゅ、きゅきゅきゅきゅきゅ... きゅ、きゅきゅきゅきゅきゅ... のリズムで聞こえてくる。 でも、鳥だったらもっと始終鳴くのではないか。 一日部屋にいると…

クラスメイト再編

わたしは中学高校と6年間続いた女子校で学んだ。 一学年250人一クラス50人。 毎年組み替えがあるから、ほぼすべての子と一度はクラスメイトになる計算だ。 それでも、卒業までほとんど話をしたことのない子も、互いに残る。 それから30有余年経ち(嗚呼)同…

カフスボタン

正しくは「カフリンクス」という。 カフスボタン。 男性のスーツの袖口からのぞいているのはシャツのダブルカフスの折り返しと、それを留めているカフリンクス。 そうであって欲しいと切に願う。 これも父の影響なのだ。 最初に見たスタイルがそれだと、簡易…

ダンデライオン

四六時中言葉を書きつらねている身としては、歌を聴いても歌詞の文法的整合性が気になってしかたがない。 気にしてもしかたないような歌詞もたしかにあるけれど、ついつい編集者として聴いてしまっている。 そういう意味で、松任谷由実の「ダンデライオン」…

TAKARAZUKA

おととし、娘が高校三年生のとき、大学では舞台美術を学びたいと希望したことから、10年前一度だけ観た宝塚を、また二人で観にいってみようと決めた。 知り合いの年季の入ったファンの人に連絡したら、すぐに宙組のチケットを取ってくれて『モンテクリスト伯…

夜のパンジー

大学通りの花壇に、パンジーが植えられている。 わたしの夕方の買い物時間はだいたい6時過ぎで、寄り道するから、帰りに大学通りを渡るのは7時くらいになる。 冬場はもちろんいまも、7時にはもう暗い。 横断歩道のほとりのパンジーも暗いなかで、白と黄色と…

君住む街角

初めて映画を観たのは4歳のときで、日比谷のみゆき座、『マイ・フェア・レディ』だった。 イライザがヒギンズ教授の家に引き取られて、メイドたちにむりやりお風呂に入れられるシーンが怖かった。 湯船にまっかな入浴剤みたいな粉末をぱあっと溶かしたのが、…

写真立て

部屋の本棚に、布張りの小さな写真立てがある。 左右に1枚ずつ入っていて、本を開いて立てるような形になっている。 左には、息子の年少組のときの遠足の写真。 右には娘が生後2か月で初めて公園に連れていったときの写真。 時期としては2枚とも同じ。 1996…

マトリョーシカ

今夜は卵子の話。 男性にはちょっと生々しいかも知れないけれど。 妊婦検診ではおなかにエコーをかける。 19年前はまだ黒白の点々画面に過ぎなかったが、医師は胎児の内臓も確認していた。 「女の子ですね、卵巣があります」 うれしいのと驚いたのが同時。 …

coming soon

きのう書いた友人との出会いに限らず、親しくなる人との間にはしばしば予告編のようなエピソードが生じる。 7年ほど前に、近くのカフェで知り合った年上の女性は、かつて別の町で喫茶店を開いていた。 そこにはわたしも8年間住んでいたから、詳しく聞くとす…

人違い

外を歩いていて、知っている人によく会うということは前に書いた。 生きてる人を呼ぶイタコだと。 その副作用みたいなもので、人違いもときどきしてしまう。 手を振って近づいていったら、ぜんぜん知らない人だったり。 あるとき、家のそばの横断歩道で、あ…

せっけんの箱舟

こどもは、誰にも聞いていないと思われるのに、人類の歴史や精神史に関わるようなことを、ぽっといったり、遊びのなかで表現したりすることがある。 わたしも、二人を育てるなかで、そんな経験を何回かした。 それは彼ら自身のことだから、きょうは自分が覚…

曲がり角の沈丁花

小学校3年生の3学期。 わたしは新しい言葉をつくることに挑戦していた。 言葉は世界にたくさんあるけれど、どれも最初は誰かがつくったものだ。 誰かがつくって、だんだんに広まっていった。 だからわたしにもつくれるに違いない。 自信をもって臨んでいた。…

できるようになったことを

こどもは泣くことしかできない状態で生まれてくる。 そこから一つ一つ、ときにはいくつかのことをいっぺんに、学習して、できることを増やしていく。 それが成長だ。 ほとんどの(恵まれた)母親は、こどもの産声を聞く。 そして、こどものたった一つのでき…

mon oncle 4 見えないだけ

「あげまん」の完成試写会とそのあとのレセプションが、伊丹さんに会った最後の機会だった。 帝国ホテルのパーティルームにアジアンな服はやはり似合わない、とわたしは思っていた。 最後まで、彼の服の趣味の変化に否定的。 それから7年。 事故だったのだと…

mon oncle 3 リングは中指

大学を出てから、週刊誌の仕事で伊丹さんに会ったこともあった。 世田谷の自宅で、炬燵に入ってのんびりとインタビュー。 映画の話だったと思う。 下の坊やが、炬燵の周りを駆けまわり、伊丹さんに叱られていた。 映画監督になってからの伊丹さんは、藍染め…

mon oncle 2 高そうなお寿司

わたしはそのころ、ときおり襲ってくる非現実的な感覚に怖れを抱いていた。 あの、なにもかもが遠ざかっていくようなときを楽しめない時期にあったのだ。 自分は心を病んでいるのではないか、しだいに激化して元に戻れなくなるのではないか。 毎日不安だった…

mon oncle 1 適宜に

僕とのことも書いて、と伊丹さんがいっている気がするから、きょうからは伊丹十三さんのことを。 こんな有名な人を知っていたという自慢話にまたなるけれど、わたしなりのレクイエムということで、よかったらおつきあいください。 大学のときに、学生ミニコ…

3.11

4年前の3月10日には、高校受験を終えた娘と『美女と野獣』のミュージカルを観にいった。 大井町の駅ビルのレストランでパスタを食べてから、劇場まで歩いた。 始まる前からとても楽しかった。 翌日の地震。 娘は中学の体育館で卒業式の練習をしていた。 幸い…

願い

ブログの最初のころに書いた「はじまりのとき」。 ここはどこなのか、いまはいつなのか、ここにあるすべてはいったいなんなのか、まるでわからなくなり、なにもかもから自分が遠く離れていく。 それを初めて感じたのが、わたしの「はじまり」だった。 いまで…

一人の夜に

母が入院して5か月。一人で過ごす夜が続いている。自分以外に物音を立てる者のない静けさ。自分が置いたものはいつまでもそこにある。お皿も洗わなければ洗われないまま。部屋という箱のなかで、エネルギー保存の法則を暮らしているかのよう。20代のころにも…

plane bird

娘の名前の文字を考えてくれた友人は、言葉のセンスに優れていて、人を評するときにもいちいち面白かった。 わたしのことは「マニアに受ける地味な野鳥」だと。 知っている人は知っている。 わたしの目鼻立ちが地味なこと。 そして、変わった人に気に入られ…

本日休筆

体調不十分にて本日お休みいただきます。ログインが精一杯でございました。また明日。

青いとき

もう10年くらい前になるだろうか。 ゲランの香水のコンサルテーションを受けた。 自分の好みだけで選ぶのではなく、プロのアドバイスを聞いてみたかったからだ。 予約した日時、部屋では少し年上の女性が待っていた。 小柄で、すっきりした雰囲気の人だった…

この夜

19年前の今夜、わたしは産院の個室から友人に電話をかけていた。 数時間前に生まれた娘の名前の文字をどうするか、相談するために。 名前の音は、当時3歳11か月の息子が決めていた。 クラシックな音なので、文字でオリジナリティを出したかった。 友人は美し…

銀座にて

ある友人と銀座のデパートに入った。 二ついって、二つとも地下の食料品売り場しか、いかなかった。 徹底してるなあと思ったが、自分はというと、新宿のデパートで1階の化粧品とヘアアクセサリーと香水しか見ない。 服は一つのブランドだけ、たまにのぞく程…

カリグラフィー

アルファベットの手書き文字にとても惹かれる。 カリグラフィーという、リボンで書いたような飾り文字の教室があると知って、すぐに入ったのは87年頃だった。 専用のペンと瓶に入った水性インク、45度の傾斜をつけた台を用意。 紙を台に固定し、平たいペン先…

わたしの落語史6 エスカレーター

談志師匠が落語協会を脱退して、立川流の家元になったころから、わたしは彼を追いかけなくなった。 脱退するに至った師匠の気持ちは理解できたけれど、文句をいいながら寄席に出ている師匠が好きだったから。 わたし自身、一人暮らしをするようになり、その…