羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

2015-02-01から1ヶ月間の記事一覧

わたしの落語史3

ここからは立川談志師匠の話になる。 談志師匠のファンになったのは大学2年の終わりに落語会で「黄金餅」を聴いたときからだったのだが、それはいつだったか、なぜいったのかを覚えていない。 ファンになってからは落語会に週に1回以上通っていたから落語会…

わたしの落語史2

中学は女子校だったのだけれど、落語研究会があった。 2年生のときに入会して、中3の文化祭では「堀之内」で高座に上がった。 オレンジ色のウールの着物を着て。 大喜利にも出てアドリブをいい、司会者を吹かせたものだ。 「堀の内」というのは、粗忽噺の一…

わたしの落語史1

落語が好きになったのはいつか。 はっきりとは覚えていない。 4歳のときに日劇でレビューと林家三平の落語というショウがあって、それを見たのが最初だということはわかっている。 レビューでダンサーが壁に出たり入ったりするのが不思議だった(壁はゴムベ…

父のバーバリー

父は着道楽だった。 スーツは老舗テイラーで誂えた三つ揃い。 シャツもオーダーで、腕にイニシャルの刺繍入り。 ネクタイはフランスもの。 靴はイタリア製。 レインコートはバーバリーを着ていた。 わたしが覚えているのでは、最初がカーキの濃い色のステン…

体と心

わたしに体があったから、こどもたちを迎えられた。 大切な人たちとも出会えた。 でも、体があるから、離れているという時間ができる。 いつか分たれるときもくる。 再会を信じているとしても。 心で超えることはできるのだろうか。 言葉にこんなによりかか…

雨のハードボイルド

池波正太郎の『鬼平犯科帳』。 テレビドラマを見て読みはじめて、この一行に出会った。 「雨のまま、夜になった」。 しびれた。 ハードボイルドとはこのことだ、と思った。 朝からの雨だとこの気分にはあまりならない。 午後遅めの時間から降りだして、雨の…

杖つく人

少し前から、街で、杖をつく人に目が留まるようになった。 見えはじめるとどんどん現れる。 駅の構内でも、通りでも、杖をつく人がわたしに向かって歩いてくる。 杖をついているのは年配の人だけではないこともわかった。 自分の意識が杖にいっているのだ。 …

曇った日は遠くが見える

空が和紙で裏打ちされたように白く見える曇りの日。 東京らしくて好きだけれど、もうずいぶん前から東京も青空の日が増えてきたように思う。 ともあれ白く曇った空の下の東京の景色。 遠いところまでよく見える。 電車の窓からは送電塔が、シャープペンの芯…

思ってない

娘が中学生のときだったと思う。 話の流れで聞かれたことがある。 「ママは小さい子や赤ちゃんが好きだから、わたしに早く孫を生んで欲しいと思ってるでしょ」 あわてて答えた。 「ぜんぜん、そんなこと思ってないわよ」 わたしが街で赤ちゃんや小さい子にす…

カップのゆりかご

一日に、最低一度は喫茶店やカフェに入る。 カフェインへの依存を心配してくれたともだちがいるが、たぶんそうではないと思う。 一つには、知らない人の顔を見ないで一日を終えると寂しい気がすること。 もう一つには、両親が出会ったのが喫茶店だから、遺伝…

小さなしるし

寝る支度をしていたら、ふいにある画像を思い出した。 脳裏にはっきりと映っている。 20年以上前に見た、大久保の商店街の洋菓子店の看板だった。 商店街揃いの、舗道の庇の下に掲げられた、四角い看板。 息子をベビーカーに乗せて、毎日曜日通っていた、教…

守護

自宅近くの調剤薬局の出口に、自転車が停まっていて、小さな女の子が後ろの座席に乗せられていた。 その横に、女性が立っている。 買い物帰りのようで、荷物を持ったまま、女の子を見てそこにいた。 歩いて近づいていたわたしが、様子を把握できる距離までき…

Each day is Valentines day.

チェット・ベイカーの歌声で思い出している。 ”My Funny Valentine" ぼくのために髪型を変えたりしないで もしもぼくのことが好きなら ずっとそのままでいて 毎日がバレンタインデイさ 短い髪の女性が好きだといわれたら切りたくなるし、長い髪の女性が好き…

女子校バレンタイン

女子校のバレンタインデイの話なんて書いても面白く思う人はいないかも知れないけれど、きょうの話題ということで書いてみる。 われらが母校は、麹町の日本テレビの裏にあった。 いまも学校はそこにあるが、日本テレビは越してしまった。 当時まだ友チョコと…

my home town

品川で生まれて、中学高校は麹町で、アルバイトは東銀座。 大学は西荻窪だから中央線に縁はできたものの、帰りは毎日アルバイトだったし、吉祥寺や新宿で遊ぶこともあまりなかった。 結婚して荻窪に住んだのは、丸ノ内線に乗れば銀座に出られて仕事にも便利…

わたしの本棚

作家の本棚を撮影した写真集を見たことがある。 作家は読書家。 金井美恵子も「読んだから書く」という意味のことを書いていた。 わたしが読書らしい読書をしたのは小学校の5年生までだった。 志賀直哉の全作品を読んで、それは終わった。 わたしは、文章を…

眠れぬ夜のこども

小学校2年生に上がるころ。 夜、布団に入ってもなかなか寝つけなくなった。 11時過ぎに両親が見ているテレビの音が怖かった。 まだ寝られない、まだ寝られない、と思うから。 うちのなかの音がぜんぶ消えても、眠れなかった。 アパートの2階に住んでいて、わ…

ふられ男ベスト3

以前ある女性誌で、ビデオレンタルのガイドとして「このテーマで3本」という連載をしていたことがあった。 たとえば「男の友情3本」とか「号泣3本」とか。 いま書くと同じテーマでも作品が変わるかも知れなくて、そのとき挙げた作品も定かでないものもあるが…

変わらないわねえ。

わたしの出身大学では、年に一度卒業生のホームカミングのイベントが催される。 ゴールデンウイーク中の一日で、体育館ではバザー、学生会館の周りには模擬店、ホッケーグラウンドではこども向けのゲームが開かれている。 同じ沿線に住んでいたこともあって…

エレベーターホールで

昨年の10月、母が手術を受けて集中治療室にいたときのこと。 エレベーターホールで、おとうさんに連れられた3歳くらいの男の子に会った。 ポロシャツにダウンのベストを着て、ジーンズとスニーカーをはき、野球帽をかぶっていた。 まだ小さい体にそれらぜん…

はじめての漢字

わたしのうちにテレビがきたのは2歳のとき。 そしてわたしは一つの漢字を覚えた。 「終」。 ドラマでもドキュメンタリー番組でも、最後に出るのはこの漢字。 「おわり、おわり」と連呼していたらしい。 次に覚えた漢字は「三福会館」。 角隠しをしたお嫁さん…

春の空

陽春。 日差しは春のように明るい。 きょうの空は青くて雲が白くて、しゃれたこども部屋の壁紙のようだった。 高いところに小さく、飛行機の白いおなかが見えた。 シラスくらいの大きさだ。 雲の端から入っていく。 わたしは待った。 ゆっくり五つ数えたら、…

心が豊か

お金がなくてもいい。 地位も名声もいらない。 小さい家でもいい。 贅沢なものを持っていなくてもいい。 心が豊かならば。 そういう話を聞くとわたしは思う。 お金や地位や名声、贅沢な暮らしと、心とを、なぜ天秤にのせるのだろうか、と。 心以外のものが豊…

立春満月

昨年の秋口。 認知症を患ったため、引き取って介護していた母が倒れ、救急搬送。 検査で、10万人にひとりといわれる脳の病気が見つかる。 翌月手術、50日間の入院。 11月の末に転院して現在までリハビリを続けている。 春には新しい居場所を求めなくてはなら…

ペンの達人

修業時代の師の一人。 日本で最初の女性週刊誌の創刊時からライターとして活躍していたところを、新聞社の編集局に引き抜かれ、編集委員となったYさん。 インタビューの名手だった。 一度、2時間のインタビューに同席したことがある。 食事をしながら、お酒…

言葉を選ぶ

文章を書くということは、すべて、言葉を選ぶことだと思っている。 文法にのっとって、意味が通じるように正しく書くことは前提ではあるが、極端にいえば、名詞の羅列でも伝えたいことは表せる。 よこはま、たそがれ、ホテルの小部屋、だ。 いま伝えたいこと…

そしてテーマ

一人称を選び、書く相手を定め、文章のモードをイメージして。 ではおもむろにテーマを。 テーマは、相手に伝えたい感情から起こしていくといいと思う。 また恋文にたとえると「好き」な気持ち、心臓がそのままハート型になってしまったかのようなどきどきす…