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羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

3.11

4年前の3月10日には、高校受験を終えた娘と『美女と野獣』のミュージカルを観にいった。

大井町の駅ビルのレストランでパスタを食べてから、劇場まで歩いた。

始まる前からとても楽しかった。

 

翌日の地震

娘は中学の体育館で卒業式の練習をしていた。

幸い、耐震工事が済んだばかりだった。

高3だった息子は自宅のトイレにいた。

トイレは家のなかでは安全な場所、とわたしが前にいったことを思い出してじっとしていたのだそうだ。

 

わたしは銀座のレストランにいた。

こどもたちに会えたのは夜中の2時だった。

それからの月日。

わたしはしばしば、地震の前日のことを思い出した。

美女と野獣』の舞台に夢中になっていた娘とわたし。

あのときに戻れないものだろうか。

日本ごとあのときに。

 

その不安と悲しみは、次第に薄れていった。

薄れてしまったのだ。

そうでなくては生きてはいけない。

いいわけも湧いてくる。

わたし自身がしっかりと生きていなければ、結局なにもできないのだから。

 

それでも、この4年後の3月11日。

わたしは、15歳の娘の顔を思い出している。

うつむいてパスタをくるくると巻いていた、いまより幼い横顔。

2時まで起きて待っていてくれて、暗い部屋からのそっと出てきた息子の姿。

 

わたしたちは生かされた。

生きることを託された。

忘れずに。

祈りの一つの灯火として。

 

 

 

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