羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

What's Going On

きょうは息子の生まれた日。


きのうの夜中に前期破水で入院して、朝御飯までは元気で10時頃に、あれ、痛い、かな。

そこからはどどどっときて、夕方の5時前に生まれた。


助産師さんに「安産でしたねえ」といわれ、えええー、こんなに辛かったのに、と思ったら、どんどん進むのを安産というのであって、痛くないわけじゃないらしい。


入院前には期待と緊張で、いろいろ考えた。

陣痛中、気を紛らわすためには好きな音楽を聴くといいかも、と、当時新製品だったCDウォークマンを用意。

いちばんリラックスできそうなマーヴィン・ゲイのアルバムといっしょに入院の荷物に入れた。


しかし当日は、とてもCDウォークマンを操作する余裕がなかった。

看護師さんは、その辺をお散歩してこいだの、シャワー浴びてこいだの、非情な指令をつぎつぎ出してくるし。


だから、マーヴィン・ゲイを聴いたのは翌朝。

What's Going On の冒頭の街の音が流れてきたとき、すでにわたしは目を見開いていた。

音が一粒一粒、きらきらきらきらオーロラ色に光って頭のなかに落ちてくる。

美しさに声も出なかった。


驚きとともに一曲聴きおえて、わたしは理解した。

きのうの陣痛のあいだに、脳内麻薬が相当量放出されたのだろう。

それはいまもまだ残っていて、音楽をこんなに綺麗に聴かせるのだ。

音が目に見えてしまうほどに。


あれから23年。

いまもマーヴィン・ゲイが好きだ。