羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

something blue

二十代に書いた散文のなかに「銀座で青を探す」というテーマのものがあった。

 

当時は、松屋デパートの通りに面したショウウインドウの一つ一つに、濃い青のテント屋根がついていた。

MATSUYAのロゴが入った独特のブルー。

見るだけで爽やかで洒落た気持ちになったものだ。

 

その先の伊東屋に入ると、中二階は万年筆の売り場だった。

紳士が、調子のよくない万年筆を持参して、女性店員に渡す。

彼女の手元には水が六分目ほど入ったコップがある。

ペン先を浸してくるくると回すと、インクが溶け出して透明な水が渦を巻きながらブルーに変わっていく。

 

伊東屋のさらに向こうの銀座メルサには、外国のブランドの服が並んでいた。

イタリア製のワンピースのプリントのなかのブルーには、日本のものでは見たことのない鮮やかさがある。

大人の女性の洗練を見るようだった。

 

それらのブルーはみな美しいけれど、と二十代のわたしは思う。

イメージのなかのブルーとは違っていると。

 

そして銀座通りを渡ってラ・ポーラのなかのリプトン・ティールームに入ろうとしたとき、レインコートの女性とすれ違う。

明るいサンドベージュのトレンチコート。

砂浜を思い浮かべる。

砂浜に寄せる波、波が生まれてくる海の色。

 

これこそが、わたしの探していたブルー。

 

そんな生意気なことを、書いていた。

いまは心で歩く銀座通り。

 

リプトン・ティールームではクリーム・シャリマ・ティーがお気に入りだった。

温かいダージリンにオレンジのスライスとホイップクリーム。

オレンジの酸味でクリームがかすかに固まったところがお茶に混ざるのが、とびきりおいしかった。