gigi
父が60代後半の頃の話。
同じマンションに住む、喫茶店の不良マスターと親しくつきあっていた。
マスターは、二軒の店を軌道に乗せ、三軒めを作りたいという。
ついてはマシンで淹れるコーヒーの専門店はどうだろう、小さいカウンターだけの店で、おとうさん(父のこと。あだ名に近い)と二人でやりたい。
マスターの奥さんと母とわたしは賛成した。
面白いじゃない、と。
おとうさんはなにもしなくても、座っていればお客がくる、とマスターもいう。
父はまんざらでもなさそうだった。
二人でやるんだったらさ、とわたしはいった。
「ジジ」って名前がいいと思うよ、綴りは「gigi」で、踊り子のイラストとデザインして看板にするの、フレンチカンカンで。
看板に惹かれて入ってくると、ジジ違い。
父もマスターも「いいねえ」と乗り気だった。
けっきょくそれは話で終わった。
80年代の半ばにマシンだけの店というのは、マスターには先見の明があったと思う。
わたしもマシンで淹れる泡立ったコーヒーは好きだ。
自分でそんな店が持てたらいいなあ、と夢を見る。
ジジやってるババといわれるかも知れないけれど。