007ダニエル・クレイグはなぜ憎めないのか
もともと好きだから、憎む必要はないのだけれど、現ジェームズ・ボンド役ダニエル・クレイグはいつ見ても憎めない顔だと思う。
理由はうすうすわかっていた。
意識下ではわかっていたけれど、自我が認めたがらなかった。
しかし、先日新作「スペクター」を鑑賞するに至り、ついに閾は破られた。
ダニエル・クレイグが憎めないのは、鼻の下に「ハタ坊線」があるからだ。
天才・赤塚不二夫描く「ハタ坊」をご存じだろうか。
名前の由来は頭の上の旗だけれど、わたしがいうのは彼の鼻の下、すなわち「人中」の二本の線のことである。
われらがダニエルは西洋人だけあって、それが非常にくっきりしている。
シーンによってはそこが光を反射して白く立体的に、まるで短く折った割箸を鼻の穴に入れて口でくわえているようにさえ見える。
ハタ坊を通り越して「どじょうすくい」なのだ。
トム・フォードの、これ以上フィットしたら肌に埋もれるのではないかというほどぴったりした仕立てのスーツで、高くそびえた塀の上を走るときも、年増の未亡人を壁に押しつけて自己紹介しているときも、列車で殺し屋と激闘するときも、鼻の下には「ハタ坊線」極まって「どじょうすくいの割箸」。
これが憎めるものなら憎みたい、けっして憎めない。
ダニエルが007を演じる次回作は、あるのかないのか、まだわからないけれど、わたしとしては、たとえ退職しても「J」とかいう役で出て欲しい。
どうか「ハタ坊線」を見せつづけて欲しい、あのシリーズのなかで。