羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

毛糸小僧

例の四畳半に住んでいたころから、母の編み物の内職を手伝っていたおかげで、毛糸については勘が働く。

 

とくにこの数年、熱心に編み物をしているのだけれど、売り場で毛糸を選ぶときにはなにやらゆるぎない自信が湧いてくる。

言葉にすると「わたしにはわかる」という感覚。

 

母が手編みの際に好んで使っていたのは、イギリスやイタリアの糸だった。

イギリスの糸は羊毛の質がよく、イタリアのものは色と加工のセンスがいいという理由で。

 

わたしがいまいちばん好きなのは、おもにイギリスの原糸を用いた日本のメーカーPの糸だ。

繊維にコシがあって、堅い。

糸玉からすーっとひっぱってくるとき、糸に角を感じる。

 

日本の糸はたいていが柔らかすぎる。

Pの糸が手打ちうどんだとすると、多くの日本メーカーの糸は、機械で打った断面が丸いうどん。

柔らかすぎる糸は編み上げて身につけ始めるや否や、わたわたした感じになってしまう。

それぞれに風合いは工夫されているが、いかんせん、芯が弱いのだ。

 

いっぱしの毛糸評論家きどり。

こうしてクロゼットにはPの糸がどんどんたまってくる。

きょうもつい、優しい黄色に惹かれて極太毛糸を二玉買ってきてしまった。

次に編む帽子のために。