羽生千夜一夜 

羽生さくる 連続ブログエッセイ

はじめての吟行

けさは銀行へいく用事があったが、その後は吟行だった。

いつの日か俳人同様になることを夢見て、かつての同級生と語らい清澄庭園へ。

 

はじめてながらやる気十分の彼女たちに遅れまいと、庭園に一歩入った瞬間、わたしは自分の感覚がぱあっと開いていくのを感じた。

 

たんなる散歩や小旅行でどこかに入ったときとはまったく違う。

目も耳も鼻も皮膚の感覚も、外界に向かって開いて、伸びていく。

 

「よーし、俳句をつくるぞ」という意識が、感覚のバージョンをはっきりと変えるのを体感したのだ。

見て取ろう、聴き取ろう、嗅ぎ取ろう、肌で覚えよう。

五感以外のなにかも使って自分のものとしよう。

繊細にとらえたら、内的感覚のアンプリファイアにかけてボリュームを上げ、言葉に置き換える。

 

息を吸って胸を静め、自分を小さな鞠にして、景色のまんなかに立つ。

すべてのものが、わたしに話しかけてくるかのようだ。

池には体長1メートルを超える鯉がいる。

鱗の模様まで、なんと大きいのだろう。

背中に乗れそうだ。

口も大きくて、水面でパクパクするとその音が聞こえるほど。

 

驚いて見つめていたのは鯉だけど、できたのはこの句。

 

庭園の春行く亀の立ち泳ぎ      郁子(むべ)

 

 

ちなみに「むべ」というのは小さなアケビのことで、この漢字表記はじつはわたしの本名。

同じ名前の奥さんを持つ編集者に教えてもらった。