座高問題 part 2
今週の初め、映画を観にいったときのことだ。
プレミアム会員というのをもう何年も続けている立川の映画館。
インターネットで予約した座席についたら、前のおにいさんの座高が高く、かつ毛量が多く、スクリーンの中央下方にスタンダードプードルの頭部のような影が。
近年には珍しいもろかぶり、だった。
後ろをそっと振り返ってみると、わたしと変わらない体格の女性。
これでは座席に正座作戦は使えない。
彼女が見えなくなってしまうからだ。
「NO MORE 映画泥棒」を見ながら、わたし自身の座高をめいっぱい伸ばして、プードルの影をしのぐ体勢を模索する。
(ところで、映画泥棒を目撃したり自室でダウンロード泥棒したりしているポップコーン君は共食いどころか我食いをしているが、あの映像は12歳以下が一人で見てもいいものなのか)
本編が始まってからも、座ったままの背伸びを何度もし直すのだが、プードルの影は完全には越えられない。
気にしないようにと思っても、髪の毛の一本一本まで見えてしまうのがつらい。
映画を観ているのか、影と戦っているのかわからなくなってきて、もうなにもかも嫌になりそうだった。
そのとき、わたしの左隣のおにいさんが、にわかに前に身を乗りだした。
どしたの、なにか見づらいものがあった、と聞きはしないけど思っていたら、元に戻った。
と思ったらまた身じろぎ。
そしてなにかを決意したように、彼は立って出ていった。
お手洗いだったのか、としばらく待っていたが、帰ってこない。
深刻なお手洗いかな。
出入りする人は他にもいて、前の扉から二人入ってきたが、隣には誰もこなかった。
うーん、でもね。
わたしは思った。
買ったチケットと違う席に座るのはマナーとしてどんなものだろうか。
しかし映画はどんどん進む。
彼が立っていってから15分は経っているように感じた。
ええい、替わっちゃえ。
帰ってきたら謝るまでのことだ。
神様がくれたラッキーを受け取らなかったら、神様がっかりするだろう。
わたしはすばやくおしりを浮かせ、肘掛けを前方向にビヨンドして左の席にずれた。
はたして、プードルの影は、右の遠くに去った。
一つ違うだけで、視野は全く異なる。
さっきまでの厭世観は一瞬にして消え去った。
そして映画は終わった。
明るくなり、立ち上がると足元にはおにいさんのバッグがそのまま。
どこか後ろのほうで観ていたのだろうか。
ごめんね、そしてありがとう。
体には気をつけてね。