はじまりのとき
自分が自分になったのはいつか。
物心つく、という言葉があるけれど、それは幼い時期のある日、ふいにやってくる瞬間だと思う。
そこから、人生のゆくてに向かって、リボンのリールが投げられる。
伸びていく細いサテンの艶。
切れることのない意識の一筋。
わたし自身のリボンの出処は、6歳の夏の夕方に母に連れられていった、マーケットの魚屋の前だ。
他の人はどうなのだろう、と思った。
出発点は誰にもあるものだろうか。
数人の友人に聞いてみた。
あのときから自分というものがはじまった、というふうに考えたことはありますか、と。
あしたから一人ずつの話を書いてみることにする。